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作者:七瀬

プロフィール

・1977年7月生まれ
・職業:某デリヘル店に勤務

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東京タワー

2月 21st, 2011

この街はゴミ箱だ。

赤い電波塔、霞んだ東京。 箱の中、バラバラのジグソーパズルみたいで、ある疑問が頭に浮かぶ。このパズルを組み上げれば意味をなすのか。例えば、私達の人生を。
富士山が堂々としていて、私達の後ろめたい関係を責めているようで、胸がえぐられる。好きなのに、誰にも言えない。好きなのに未来を見れない。
空が夜に近づくと、落ち行く太陽から、こちらに1本の光の道がゴミ箱の上を通った。
「あの道を歩いて、どこか遠いところに行きたいね」
街は赤く染まり、ビル達が影となり、バラバラのピースは一体化し始め、夕日が富士山に隠れだして、刻一刻と進む時間を意識させられる。チクタク、チクタク、 終焉 ( しゅうえん ) へのカウントダウンは始まっていますよ。太陽の最後の一滴が山の向こうにこぼれ落ちると、夜が街を飲んだ。
展望台の壁の柱の窪み、男の厚い胸と固い手が私を包むように隠してくれる。誰にも見つかってはいけないね。まぁだだよ、まぁだだよ。永遠に続くかくれんぼならいいのに。男の肩に頭を乗せて、耳を噛む。

「キスしていいかな?」

私は、答えを待たずに唇を押し付けた。唾と唾か混ざり合って、男の手が腰から、その下に移動し、体が熱くなって、ビル達の赤い認識灯がチカチカ私達を 見つめ、隣の客の
「キレイだねえ」
なんて会話も、私に向けての言葉のように感じ、誰かが切るシャッターの音でドキドキしてしまい、男の手を取り、短めのスカートの中に誘い込む。
「富士山に見られていなくてよかったね」
私達は日本人だ。静岡県民ではなくとも、富士山は私達日本人のサンクチュアリ。
私の頼りない下着の上から、固い指が、なぞる。粘度の高い液体で湿っているはずのそこを、何度も何度も往復して、薄い布に形を写しとるように、ゆっくり と、丁寧に、指の先や、指の腹、右手全体を使って、確かめている。男の右手というよりも、右手という生物が男に宿っているようだ。
布の隙間から、指が潜りこみ、迷わずクリトリスを捕獲した。景色を見なければ、いけない。男は真っ直ぐに前を見ている。こんなに、私をしてしまっているの に、表情は穏やかで、正面のガラス越しに私達のシルエットが映り、影になっている男の下腹部にある獲物を、私は、左手で捕まえる。ズボンの上からでも、窮 屈そうなそれの熱は伝わってきて、早く私の体内に収めたいと思う。おま○こは不思議な動きをする右手の指々によってトロトロに溶け、女の匂いが漂い、左手 の中の男のチ○ポは強くズボンを張り、足に力が入らない私を男が支え、お尻かピクピク動いてしまって、前を見る演技もできず、目を伏せ、男の隣にいたメガ ネの少女と視線が合い、夜に落ちた。
闇が隠してくれていてよかった。ゴミ箱みたいな街も、私達の背景も。汚い物は見たくない。綺麗な物だけ見ていたい。
赤く 孕 ( はら ) んだ電波塔。エレベーターは胎内からスルスルと私達を下界に下ろし、パックリ開かれた穴から、この街に産むだろう。
空は狭く、サンクチュアリは遠い。

七瀬 小説

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