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作者:七瀬

プロフィール

・1977年7月生まれ
・職業:某デリヘル店に勤務

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『たなびけば、』 (1)

2月 17th, 2012
そこで9万8千円支払った。旅行会社のカウンター、格安チケット。2週間後に出発だ。インドへ1人旅。
成田空港、第2ターミナル。搭乗手続きが済んでしまうと、出発までにまだかなりの時間があった。コーヒーを飲みながら喫煙所へ向かい飛行機を見る。青い空に白い機体が眩しい。牽引車にプッシュバックされる飛行機。ほとんどの旅客機は自力でバックできないらしい。なんでかな、わからない。なんであんな金属の塊が空を飛ぶのかも、わからない。乗っている人全員が飛ぶと信じているから飛ぶんだ、と誰かに聞いたことを思い出す。信じているから、飛ぶ。いっそ落ちてしまえばいいのに。空の上で爆発して、海に落ちて、サメだかマグロだかの餌になってしまうのも悪くない。私には、わからない事ばかりで困る。
出国審査を終え、免税店で化粧品を見ることにした。空港の化粧品を売る店は独特の匂いがする。いい匂いというだけじゃなく、湿度とか、空気の密度が違う感じがする。外国ブランドのチークやシャドーを手にとって見ていると、キレイな顔の背の高い従業員に話しかけられた。
「こちら人気があるんです。限定品になんですよ」
キレイな女は笑顔で、ちゃんと化粧もしていて、体にピッタリと沿った黒いスーツがよく似合っていて、私は恥ずかしくなった。好きな男には私よりも大切な家庭があり、しかも、そんな男にすらフラれたことを見透かされているように感じたからかもしれない。不倫という俗欲的に使い古された言葉で表す関係性においても、主導権を握れなかった私の無能さを指摘されている感じがしたからかもしれない。
平日の昼間、彼と一緒にデパ地下に買い物に行った。買い物をしてからホテルに行く予定だった。お酒とお弁当を買った後、彼が身体障害者用のトイレに私を引き入れ、抱きついてスカートの中に手を入れてきた。触られながらキスをすると子宮がキュウキュウ反応しているのがよくわかったけど、お風呂に入ってないし、やめてよ、と言った。でも、そのセリフで彼は拍車がかかってしまって、まだ洗ってもないオマ●コを触ってきて、指を中に入れてグチュグチュとかき回した。そんな状況で感じてしまっているのが恥ずかしくてだまっていると、指を抜いて、臭いよ、お前のオマ●コは何て臭いんだ、と責めるようにその臭い指を私の鼻元に近づけ、その後に目を閉じて味わうように舐め、ちょっとしょっぱいぞ、オシッコ拭かないのかお前は!と怒った。ごめんなさい、と言って怒った彼を見る。私を洗面台に座らせて大きく足を広げさせ顔を埋めて、オシッコの臭いがプンプンする、とクンクンとわざと音を鳴らして嗅いでから、パンツの真ん中を舐め始めて、ヌルヌルが滲んできてるよ、と顔を上げた。明るい個室、外を人が歩く気配。本日もご来店ありがとうございます、館内放送が流れる。パンツをずらしてクリトリスをゆっくり舐め始めて、私は、足が震える。声は出してはいけない。彼の指がGスポットを捉えて、優しく擦るように刺激する。血液が下半身に集まっていくのがわかる。あっという間に私がいってしまったのは、体の硬直で彼は知ったはずだ。指を抜いて、それをまた舐めて、おいしいよ、と彼は優しく言った。私の裂け目は分泌液を溢れさして蛍光灯に照らされて、キラキラと光っているだろう。
恥ずかしくなったのは、そういった私たちのプレイを、背の高いキレイな従業員の女に批判されているように感じてしまったからかもしれないし、化粧もほどんとせず、ジャージでいたからかもしれない。どうしようもなくなって、返事もせずにその場から逃げた。
飛行機が加速し浮いた瞬間から、私は日本のどこの土地にも接していない。だから自由だということじゃない。逆に、見捨てられた子犬になった気分だ。私は見捨てられた。それが現実。小さい窓からはどんどん小さくなる街が見える。雲を付き抜け、走る車も家々も道路も、よく見えなくなった。インドに行きたいんじゃい。ただ、いつもと違うことをしてみたくなっただけ。日本の端っこを見送ると、後は太陽に照らされる海が続いた。見捨てられ、インドへ行く。飲み物は何にしましょうか?と話しかけられる。アテンダントも、細身のスーツを着こなし、キレイで、背が高く、笑顔だ。狭いシートで膝を丸め、1人でインドなんて、バカみたい。バカみたい。バカみたい。飛行機からは逃げられない。私を笑わないで。
つづく

そこで9万8千円支払った。旅行会社のカウンター、格安チケット。2週間後に出発だ。インドへ1人旅。

成田空港、第2ターミナル。搭乗手続きが済んでしまうと、出発までにまだかなりの時間があった。コーヒーを飲みながら喫煙所へ向かい飛行機を見る。青い空に白い機体が眩しい。牽引車にプッシュバックされる飛行機。ほとんどの旅客機は自力でバックできないらしい。なんでかな、わからない。なんであんな金属の塊が空を飛ぶのかも、わからない。乗っている人全員が飛ぶと信じているから飛ぶんだ、と誰かに聞いたことを思い出す。信じているから、飛ぶ。いっそ落ちてしまえばいいのに。空の上で爆発して、海に落ちて、サメだかマグロだかの餌になってしまうのも悪くない。私には、わからない事ばかりで困る。

出国審査を終え、免税店で化粧品を見ることにした。空港の化粧品を売る店は独特の匂いがする。いい匂いというだけじゃなく、湿度とか、空気の密度が違う感じがする。外国ブランドのチークやシャドーを手にとって見ていると、キレイな顔の背の高い従業員に話しかけられた。

「こちら人気があるんです。限定品になんですよ」

キレイな女は笑顔で、ちゃんと化粧もしていて、体にピッタリと沿った黒いスーツがよく似合っていて、私は恥ずかしくなった。好きな男には私よりも大切な家庭があり、しかも、そんな男にすらフラれたことを見透かされているように感じたからかもしれない。不倫という俗欲的に使い古された言葉で表す関係性においても、主導権を握れなかった私の無能さを指摘されている感じがしたからかもしれない。

平日の昼間、彼と一緒にデパ地下に買い物に行った。買い物をしてからホテルに行く予定だった。お酒とお弁当を買った後、彼が身体障害者用のトイレに私を引き入れ、抱きついてスカートの中に手を入れてきた。触られながらキスをすると子宮がキュウキュウ反応しているのがよくわかったけど、お風呂に入ってないし、やめてよ、と言った。でも、そのセリフで彼は拍車がかかってしまって、まだ洗ってもないオマ●コを触ってきて、指を中に入れてグチュグチュとかき回した。そんな状況で感じてしまっているのが恥ずかしくてだまっていると、指を抜いて、臭いよ、お前のオマ●コは何て臭いんだ、と責めるようにその臭い指を私の鼻元に近づけ、その後に目を閉じて味わうように舐め、ちょっとしょっぱいぞ、オシッコ拭かないのかお前は!と怒った。ごめんなさい、と言って怒った彼を見る。私を洗面台に座らせて大きく足を広げさせ顔を埋めて、オシッコの臭いがプンプンする、とクンクンとわざと音を鳴らして嗅いでから、パンツの真ん中を舐め始めて、ヌルヌルが滲んできてるよ、と顔を上げた。明るい個室、外を人が歩く気配。本日もご来店ありがとうございます、館内放送が流れる。パンツをずらしてクリトリスをゆっくり舐め始めて、私は、足が震える。声は出してはいけない。彼の指がGスポットを捉えて、優しく擦るように刺激する。血液が下半身に集まっていくのがわかる。あっという間に私がいってしまったのは、体の硬直で彼は知ったはずだ。指を抜いて、それをまた舐めて、おいしいよ、と彼は優しく言った。私の裂け目は分泌液を溢れさして蛍光灯に照らされて、キラキラと光っているだろう。

恥ずかしくなったのは、そういった私たちのプレイを、背の高いキレイな従業員の女に批判されているように感じてしまったからかもしれないし、化粧もほどんとせず、ジャージでいたからかもしれない。どうしようもなくなって、返事もせずにその場から逃げた。

飛行機が加速し浮いた瞬間から、私は日本のどこの土地にも接していない。だから自由だということじゃない。逆に、見捨てられた子犬になった気分だ。私は見捨てられた。それが現実。小さい窓からはどんどん小さくなる街が見える。雲を付き抜け、走る車も家々も道路も、よく見えなくなった。インドに行きたいんじゃい。ただ、いつもと違うことをしてみたくなっただけ。日本の端っこを見送ると、後は太陽に照らされる海が続いた。見捨てられ、インドへ行く。飲み物は何にしましょうか?と話しかけられる。アテンダントも、細身のスーツを着こなし、キレイで、背が高く、笑顔だ。狭いシートで膝を丸め、1人でインドなんて、バカみたい。バカみたい。バカみたい。飛行機からは逃げられない。私を笑わないで。

つづく

七瀬 小説

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