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作者:七瀬

プロフィール

・1977年7月生まれ
・職業:某デリヘル店に勤務

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『たなびけば、』 (4)

5月 30th, 2012

そろそろ香港空港ともお別れ。飛行機の中で暇を潰すのに、雑誌を買おうと思った。搭乗口近くの書店に入る。英語と中国語の本ばかりで読めそうなものはない。どんな重要な情報が書いてあっても、それを知ることはできない。例えば、自分の知らない言葉で、誰かが、救急車を呼んでくれとか助けを求められても、私にはわからない。とっさに、逃げろ、と言われてもわからない。言葉が理解できないのは、自他ともの命を危うくする重大な問題だ。少しだけ理解できる英語のファッション誌を買った。白人の有名な女優が笑っている表紙、付録にマニュキュアが2本付いていて、インドでは、こんな淡いピンクはくすんで見えてしまうだろう。
タバコを買って喫煙スペースに向かう途中、お祈りのスペースから、肌の黒い背の高い男達が何人か出てきた。すぐ傍を通ると、今まで嗅いだことがない匂いがした。まるで、カレーの箱に描いてあるような男達だ。喫煙スペースの重くて青いドアを開ける。ガラス張りの12帖ほどのスペース、白く煙が充満している。カウボーイの格好をした白人のオジサンが、タンクトップの黒人と大きな声で英語で話していてうるさい。壁に寄りかかる女の人は背が低く、インディアンみたいな人種で、遠くを見つめていて動かない。作業服を着た東南アジア特有の顔の男達が、何か話しながら入って来た。搭乗口の先で知らないマークが書いてある飛行機がゆっくりと動き出し、太陽が機体に反射して一瞬光った。小奇麗な格好をしたアジアの若い男が奥に小さく座って、見たことがない種類のモバイルの端末を面倒くさそうに見ている。ベージュのコットンパンツを穿いている男は指に挟んだタバコの煙に語りかけるように、韓国語を使い電話で話をしている。タンクトップの黒人が大きな声で笑っている。ドアのすぐわきにいた、私達とは少し顔のつくりが違うアジアの男の人に火を借りようと思った。黒髪で地味な服装だし、大人しそうだし、安全そうだ。日本を出国するさいに、没収されるものだと思い、ライターを捨ててきてしまったのだ。それに、その男の人は、あの男の子に似ている。

私たちの付き合いがまだ浅いころ、男の子をプレイに入れたことがあった。そのころは、まだ私に他の彼氏がいて、彼がプレイ中に「そいつに電話しろ」なんて言って、それはどうしても出来なくて、しょうがないので、一緒に働いていた気の弱そうな男の子に電話した。私はデパートのギフトセンターで受付のアルバイトをしていて、その子とは特別に仲が言い訳ではなく、でもその子からの好意みたいなものはずっと感じていて、最近は時々メールするようになっていたが会社の業務関係のものばかりだった。

「もしもし…」

「電話くれるなんて、どうしたの?」

「べつに…ただ、なんとなく、何してるかなって…はぁ…」

わざと意識して普通の会話をするようにしていた。そうする方が、彼が喜ぶと思ったから。

「さっきから、なんか喘ぎ声みたいな感じできこえるんだけど…何してるの?」

男の子の声からははっきりと期待が感じ取れた。

「何してると思う?」

「…もしかして…自分でいじってるとか…テレフォンセックスしたい…の?…」

「はぁ、はぁ…本当にそうしてると思う?」

「うん。少しビックリしたけど…」

「私ね、今、クンニされてるの…ふぅ…」

私を見ながらクンニし続けている彼と、目が合った。

「ご主人様がね、私のオ●ンコを舐めてくれてるの…」

電話の向こうで、男の子は話さない。

「今、指を入れられた…ん…あぁ…もぅ…はぁ、はぁ…」

男の子は話さない。電話の向こうの静かな男の子。沈黙。彼は、私の内腿に歯を立てた。

「ねぇ、何してるの?今」

強い口調で言う。男の子の息がかすかに聞こえる。

「オナニーしてるの?」

彼は私の顔にチ●ポを押し付け始めた。

「今から、来なさいね」

消えそうな声で、はい、と言った男の子と待ち合わせをして、電話を切った。彼に、いい子だ、と褒めてもらい、お礼にフェラチオさせてもらった。

七瀬 小説

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