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作者:七瀬

プロフィール

・1977年7月生まれ
・職業:某デリヘル店に勤務

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『たなびけば、』 (9)

11月 1st, 2012

香辛料の匂いの飛行機を降りても香辛料の匂いがした。歩いていくと「世界中のマンゴーの50%はインドから」という壁一面の広告が目に入った。荷物を受け取って、手持ちのお金が日本円と香港ドルとアメリカドルしかないことに気付き、少し両替しておこうかと思った。両替のカウンターで必要な書類を書くと、無愛想なくすんだ感じのオジサンが、少しの日本円と引き換えに、大量のインドルピーを渡された。たくさん過ぎて、財布に入らなかった。

空港の出口を一歩出ると、すっかり夜になっていたが、熱風と喧騒が溢れていた。こんな世界は見たことがなかった。あまりにも違う世界に驚いてしまって、少し気持ちを落ち着けたかった。さっきコーヒーショップがあったのを思い出して、もう一度空港内の建物に戻ろうとしたら、出口にいる大きな銃を持った黒い軍隊二人の偉そうな男の方に強い口調で何か言われた。よく聞いてみると、一度出たら建物内には戻れない決まりになっているらしいことがわかったが、私は今すぐにコーヒーを飲みたかったので、「私は建物内に戻れないことを知らなかった、建物内にもどらなければならない。」と言ったら、パスポートの提示を求められた。また強い口調で何か言い出したので「私はあなたの言っている事がよくわからない、とにかく戻りたい」と静かな声で言った。面倒な問題が起きそうな場合、相手を刺激しないためにも静かに話したほうが有利だ。「どこへ行くんだ?」偉そうな軍人の偉そうな口調は熱風と喧騒のせいもあってイライラする。「あそこに行くの!」と出入り口のガラス越しに見えるコーヒーショップを指差して答えると、しょうがない、と言う感じで通してくれた。もっともらしく軍人なんか置いていてもいい加減なんだ、きっと、この国は。この世界も。

カプチーノを注文すると、若い店員が、どこから来たの、一人なの、どこを観光するの、インドはどう?いろいろ話しかけられて、さっきの軍隊の尋問のようで面倒になったので「日本から来た」とだけ答えて、カプチーノを受け取った。早くチェックインするべきだとは思ったが、椅子に座って行き来する人たちを見ていると、後ろから声を掛けられた。

「また会いましたね」

あのタイ人だ。

「インドへようこそ」

微笑みの国の国民の微笑み。

「もしよかったら、電話して下さい。僕はインドに住んでいるんです。少しの観光ならお付き合いしますよ。」

出会いはどんな場合も例外なくドラマティックだ。未知の世界が待っているからだ。何回も何回も会って、お互いの肌を知り尽くした後には馴れ合いだけが残っている。馴れ合い、嫌な言葉だ。馴れ合いとは、限界が見えてしまうということだ。汗を舐め、唾液を飲み、精子を受け入れ、愛してると言い合い、どこへ行けるというのだろう。馴れ合いだ。安心感だけが馴れ合いの武器だ。安心する、ほっとする。無くしたくないと思う。馴れ合いも、また、愛情の形かもしれない、そう思うと、少しだけ楽になる。彼との関係は終わった。安心できる場所は世界中どこを探しても、もうない。

黒い網でできているボディスーツの上にコートを着て、彼との待ち合わせ場所へ向かう。馴れ合わないように、刺激的な関係でいられるように私はいつも自分がスケベだと装った。それに、そういう格好で行けば、彼が褒めてくれたのだ。お前はいい子だ。ご褒美に尻尾をつけてやるからな。それは小さなアナルプラグに犬のような尻尾をつけたもので、入れられるとオマ●コは濡れたが、本当は私は好きではなかった。犬のように這って歩くのも、首輪をつけられるのも、嫌だったのかもしれない。喉の奥までチ●ポをいれるのも苦しかった。だが、よく濡れてしまう。触られなくても、太股がヌラヌラと光るまでに濡れてしまう。バイブをゆっくり入れられ、その振動で体中がオマ●コになってしまったように感じてしまう。イクな、絶対にイクな。彼に言われるとイッてしまう。私は、ごめんなさい、と言って彼に甘える。その瞬間だけが私は欲しかったのだろうと、今は思う。タイ人に似ている男の子を私達の間に入れるのも嫌だった。

※次回 ”たなびけば,” 第10話は、11/15(木)更新予定!

七瀬 小説

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