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作者:七瀬

プロフィール

・1977年7月生まれ
・職業:某デリヘル店に勤務

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Archive for 2月, 2011

パーティー(1)

2月 24th, 2011

他人に意識させるか、させないか、性的な卑しさは誰もが隠し持っている。見られてはいけない。

知られてはいけない。社会的役割を演じる日常、社長だから社員の生活を守らなければ、学校の先生だから社会に出る準備をさせなければ、レストランのマネージャーだから笑顔でお客様の要望に応えなければ、父親だからいいお父さんにならなければ。

ほら、滲み出てるよ、どんなに上手く隠していても、本音は変えられない。デスクの下で貧乏揺すり、やめたら。

同じような新しい家が並ぶ新興住宅街、ガレージでは子供が縄跳びを練習し、バス停では主婦達が赤ちゃんを抱っこしながら会議をしている。

近くのショッピングセンターは平日だというのに車があふれ、何本もの計画的に作られた道路は90度に交わり、ずっと向こうの信号まで確認できる。

広い歩道と、街路樹。社用車を運転する誰かが、だるそうに煙草を吸い、ジャージの誰かがビニール袋を片手に、白い飼い犬がウンコをするのを待っている。バスの乗客は無表情で、遠くで救急車の音がする。

「お招きありがとう」
男の家を見つけるのにも一苦労した。なんでこうも個性がない家ばかりなのだろう。右隣と左隣と屋根の色が同じなのが悪いのだ。緑のツンツンした木が家を囲むように植えられ、庭には水仙が咲いている。ガレージは2台分あり、いつもの、男の車が行儀よく止まっている。
「待っていたよ、いらっしゃい」
社会的に成功を収めた部類に入る男はサーモンピンクのシャツと作り笑いがよく似合った。整理されている玄関に不釣り合な手作りと思われる人形が置いてある。カントリー調を意識したその人形は、素人目に見てもへたくそで、髪の色はくすんだベージュだ。さっきの犬のほうがよっぽど綺麗だった。この家の奥さんが作ったのだろう。男がリビングに向かうために後ろを向いた隙に、その人形にデコピンした。
リビングの柔らかすぎるカウチに腰をおろす。
「私がここに来ていること、奥さんは知らないんでしょ?」
コーヒーの香りが漂い、右側に男が座る。
「近所の人に見られているかもしれないのに…こんな昼間から堂々と、私を呼び出して…」
テーブルに男が置いたカップはアルコパル。
「まったく、君はどうしても俺を悪者にしたいみたいだね」
窓からの日差しが緑色の葉の模様のレースのカーテンを通って届く。
「悪者にしたい?悪者でしょ?奥さんにはフェラチオもさせないくせして、私には、あんなひどい事までさせるんだから。」
黒いストッキングに包まれた私の長い足。それを男に見せつけるように、ゆっくりと組む。
「この前、覚えているでしょう?私は嫌だって言ったのに、言うことを聞かないあなたが暴走するから。お尻、まだ痛いの。いくらローションを使ったって、そんな、プラナリアみたいな大きいカリの生物をお尻に入れて、動かすんだもん、痛いよ。自分のチンポの大きさぐらい自覚してよ。切れちゃって血が出たんだから。」
酸味と苦味と夏の香り。
「病院の先生が苦笑してたわ。お尻を、こう、グラビアみたいに先生に見せて、触診されたって感じるわけないじゃないの。いつもいつも、バカなんだから。薬持ってきたの。塗ってくれる?」
赤いカバンから小さなチューブを取り出し、男に渡す。
カウチにお尻を男に向けた形で四つん這いになるとキッチンがよく見えた。男性経験が乏しいまま結婚したらしい男の奥さんは、いつもあそこで料理を作るのか。女としての賞味期限も迫ってきているというのに、可哀想なのかもしれない。
「脱がせてくれないと、薬が塗れないでしょ」
私が短めのスカートをたくしあげる素振りをしてみせると、男はスイッチが入ったように、まとうオーラが変わり、二つの山を鷲掴みにして、谷の部分に顔を埋めた。午後の日差しの中、スカートを乱暴に脱がされ、男の腕は私の腰をガッチリと捕まえ、お尻の匂いを嗅がれ、ストッキングはビリビリと音を立てて破かれた。

つづく

次回作は3月18日(金)掲載予定!

七瀬 小説